（黒田）パナソニックHDとの共創においてどのような期待や懸念がありましたか？

（エヌイーダブリュー 船井氏）パナソニックHDの技術をお借りして新たな独自製品を開発できること、そしてパナソニックというブランド価値やそのマーケットに期待していました。一方で懸念事項としては、自社のリソースだけで成果を出せるかという点がありました。

（黒田）パナソニックHDとの連携後、どんな点で苦労されましたか？

（エヌイーダブリュー 船井氏）パナソニックの開発担当者が弊社のラボに来てくださり、特許を含む素材を提供していただきました。我々の様々な材料の改良依頼にも誠実に応えていただき、様々なアップデートを施していただきました。この点に関しては非常に感謝しています。パナソニックHDからサンプルをいただき、自社製品と混ぜ込んで実験を行いましたが、なかなかうまくいかず何度も改良を重ねました。最初は主力商品の「インテリア・ガード®」に混ぜようと考えていましたが、素材の相性が悪く、効果がうまく出ませんでした。想定以上に成果が出ず、開発には2年弱の時間がかかりましたが、最終的には抗菌・抗ウイルス機能を持つコーティング剤を作成することができました。大手企業でありながらも、根気よく我々の開発をサポートし、非常に真摯に協力していただきました。また、ペット向けにも改良できないかと大学と共同研究も進めていただき、弊社では塗料の製造と施工をさせていただきました。

（黒田）パナソニックHDとの共創で良かった点はなんでしたか？

（エヌイーダブリュー 船井氏）パナソニックという有名で信用力のある企業の特許を使用できること、そして技術支援をいただける点は非常に大きな利点でした。効果がなかなかでない中でも、技術開発面では期待以上の協力をいただきました。一般的な消臭剤は臭いをカプセルに閉じ込める技術を用いていますが、弊社の技術は臭いそのものを分解して消すというものです。この技術により防臭だけでなく、菌やウイルスの死滅スピードも非常に高く、さまざまな環境で実験を行った多数のエビデンスを保有した信頼度の高い製品を開発することができました。技術を提供していただくだけでは新しいモノは生み出せません。特許を活用する側にもノウハウが必要です。しかし、パナソニックHDの協力を得ることで、知識が乏しい状態でも成功に近づけると感じています。

（黒田）富澤様からみた、知財マッチングに必要なものはどのようなものでしょうか？

（PATRADE 富澤氏）知財マッチングが成功するためには、双方の企業の前向きな姿勢が必要不可欠です。特に今回パナソニックHDからは開発に際して様々なご支援があったと聞いています。知財を渡してそこで終わりではなく、協力して開発を進めていかなければよい成果は生まれないと思います。また、仲介者には、それぞれの企業の事業や技術の深い知識が求められますが、知財マッチングという活動が広がっていくためには仲介者の増加が重要です。現時点で知財マッチングが世に広まるまで、あと2,3歩の段階にあると感じています。この過程で、知財マッチングという言葉が広がり、各企業が能動的に技術を検索し共創する流れになるまでは、仲介者の人海戦術やお見合い的なマッチングが数年は続くと思います。はやく広まるためには、世の中に知財マッチングによる成果がわかりやすく示されることが求められます。この共創活動には大いに期待しています。

（黒田）今後の展望をお聞かせください

（エヌイーダブリュー 船井氏）今後はパナソニックHDが参加しているオープンイノベーションプログラムのネットワーク資産を活用し、エコシステム的に様々な人が集まりやすい仕組を構築できたら、より効果的に製品を市場に投入できると考えています。抗菌・抗ウイルス技術の提供以上に、住宅などより広い市場でのパナソニックグループの事業共創に期待しています。

（エヌイーダブリュー 小林氏）この技術は車内に限らず家庭や公共の場でも活用できます。実際に、現在岡山の高級家具屋さんに提供していますが、お茶をこぼしても染み込まないため、汚れにくいと好評です。また、ガラス皮膜化によって傷にも強い技術です。テーブルなどは滑りやすくなるため不向きですが、これは溶剤次第で改良できると考えています。ISO認証も取得しており、医師や、子供がいる家庭、動物を飼っている顧客にもアプローチしています。今後も様々な分野に広げていく案はありますが、弊社は少人数のため、メインターゲットである車を中心に販売しています。パナソニックHDと協力することで、より広い分野にアプローチできることを期待しています。

（エヌイーダブリュー 船井氏）みんな、日本の経済をもっとよくしたいという純粋な思いがありますよね。そのためには、知財マッチングの仕組化が重要だと思います。また、誰もが工場を持たなくても、世界と戦える技術を持てると感じてほしいです。弊社はファブレス企業であり、研究と開発に特化しています。製造やモノの管理は全てアウトソーシングしています。非常にコンパクトな企業ですが、このような素晴らしい製品を生み出すことができる点は、これからの日本のケミカル企業の在り方を示していると感じています。